大判例

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東京高等裁判所 昭和40年(う)233号 判決

被告人 毛呂正治

〔抄 録〕

一 控訴趣意第一の第一点及び第二点について

所論は、原判示第一の四(一)について、原判決が被告人の町田行雄に対する金一万四千円の供与を認定したのは理由にくいちがいがあり、かつ事実を誤認し、ひいては法令の適用を誤つたものであるとし、右金員は町田行雄と石橋惣治が共同して交付を受けたものであつて、原判決が説明するような郡部落の運動者七名の団体が結成されたこと及び町田行雄がその団体の代表者であるという証拠はないという趣旨に帰するものである。

よつて検討すると、原判決挙示の関係証拠によれば、被告人は原判示の昭和三八年三月一一日ごろ原判示小貫屋に旧米沢地区の八部落(原判示第一の四及び五に記載されている郡、植房、大貫、毛成、古原、新、武田、立野)の居住者で原判示の候補者大塚重善のためその部落で中心となつて選挙運動を推進してくれると思われる原判示第一の四(一)ないし(六)記載の者を招集してそれらの者に原判示金員を手交したのであり(立野の者は当日欠席したので、原判示第一の五のように翌一二日ごろ手交している。)、この金額は、これを受領した者及び当日招集されていないが招集された者と同様に各部落において中心となつて選挙運動を推進してくれると思われる者の数を念頭において一応一人二千円という割合で算出したものであることを認めることができるのであるが、被告人は当日招集されていないいわゆる選挙運動推進者と面識があつた形跡もないので、一応のことは他人から聞いていたとしても、それがどのような人物であるか、ことに金員を手交しても危険がないような人物かどうかについて十分な知識もなかつたものと認められるし、更に又関係証拠ことに金員受領者の検察官調書によれば、原判示第一の四(二)ないし(五)、(六)(1)、(3)の場合には金員手交の際当日招集されていないところの選挙運動推進者の特定について被告人と金員受領者との間に具体的な協議、決定がなされた形跡もなく、原判示第一の四(二)ないし(五)、(六)(3)の場合には金員受領者が必ずしも一人二千円づつ分配せずこれを適宜費消していることが認められるのであつて、これらの事実からすれば、原判示第一の四(一)の場合も町田行雄が金員を受領する際(弁護人は、本件一万四千円は町田行雄と石橋惣治が共同して受領したと主張しているが、関係証拠ことに関係者の検察官調書によれば、本件一万四千円の授受の際石橋惣治もその場におり、被告人から同人の手を経て町田行雄に手交されたものであるが、惣治は郡第四組の者であり、同組の分はすでに当日石橋博へ金八千円手交されている―原判示第一の四(六)1―ため、被告人がその場でとくにこの金は郡第一ないし第三組の分で、第四組の分はすでに石橋博へ手交されている旨釈明していることが認められるから、本件一万四千円は被告人から町田行雄へ手交されたものと認めるのが相当であり、惣治が町田行雄と共同して本件一万四千円を受領したと認めることはできない。)町田行雄及び石橋惣治の検察官調書に記載されているように金員を分配されるべき者の氏名が被告人との話合のうちに言葉に出たとしても、それは一応のことであり、要するに金一万四千円は町田行雄がこれをとり仕切つて被告人との話合の趣旨を基本として供与等の処分をすればよいのであつて、町田の判断に基づく供与の相手方ないしは処分の態様等についての変更を絶対に許容しないという趣旨のものとは認められず、これを要するに被告人と同人との間においては一万四千円を同人の所得に帰せしめる意思をもつて授受されたものと認めるのが相当であるから、原判決が被告人が金一万四千円を同人に供与したと認定したことにつき事実誤認として非難するのは当らないところである。なお、原判示の「七名の選挙運動者の代表者である町田行雄」という点について、原判示の「公訴事実の訴因と異る認定をしたものについての説明」二によれば、原判決の趣旨とするところは、七名の選挙運動者の団体が結成され、町田がその代表者に選任されたという趣旨に解せられるのであるが、所論の通りさような事実を確認するに足る証拠はないから、原判決のこの認定は失当という外はないけれども、かような誤認は明らかに判決に影響を及ぼすべきものとは認められないから、原判決破棄の事由とはならない。したがつて、論旨は理由がない。

二 同第一の第三点及び第四点について

所論は、原判示第一の四(一)に関する起訴状記載の公訴事実は被告人が昭和三八年三月一一日ないし同月二三日ごろまでの間に七回にわたり原判示場所その他において単独又は町田行雄等と共謀のうえ町田行雄外六名に対し金二千円づつを供与した(昭和三八年七月三一日付起訴状添付の別表一の1ないし7)というのであり、これに対し原判決は原判示第一の四(一)のように認定したのであるが、この両事実は彼此公訴事実の同一性を欠き仮にそうでないとしても訴因変更の手続を経ておらず、又検察官は右別表一の1ないし7の事実を併合罪として起訴したものと認められるにかかわらず、同別表一の2ないし7について何らの判決をしていない違法があるというものである。

よつて検討すると、少くとも右別表一の1の事実と原判示第一の四(一)の事実とは基本的事実関係が彼此同一であると認められるから、公訴事実の同一性がないとする所論は採用できないけれども、右起訴は金二千円を供与したとするに対し原判決は金一万四千円を供与したと認定するもので、右は本件審理の経過にかんがみ被告人に実質的不利益を及ぼすおそれがないとはいえないから、訴因の変更手続を必要とするにかかわらず、原審においては、その手続がとられていない違法があるばかりでなく、原判示によれば、原判決は、町田行雄に金一万四千円を供与したと認定する反面において前記起訴にかかる別表一の2ないし7の事実については被告人がそのような供与をしたものでないとしたことがうかがわれるのであつて、しかも右各事実は前記起訴にかかる別表一の1の事実と併合罪の関係にあるものとして起訴されたと認むべきことは所論のとおりであるので、その点について原判決は判決主文において無罪の言渡をしなければならないのにこれを不問に付しているのであるから、原判決は審判の請求を受けた事件について判決をしない違法があるものといわなければならない。してみれば結局論旨は理由あり、原判決は破棄を免れない。

(足立 栗本 浅野)

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